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英国のSTEM vs ビジネス学位:キャリア形成に本当に有利なのはどっち?

英国のSTEM学位とビジネス学位、キャリア形成で有利なのはどちらか

英国の高等教育統計局(HESA)が2023年に発表した「Graduate Outcomes 2021/22」によると、英国の大学を卒業した留学生のうち、**卒業後15カ月以内に英国で就労している割合は全体の約61%**ですが、専攻分野によってその内訳は大きく異なります。特にSTEM(科学・技術・工学・数学)とビジネス系では、就職率や初任給、さらには卒業後のビザ取得経路において顕著な差が生まれています。

英国政府が2021年に導入したGraduate Routeビザの申請件数は、2023年には年間約14万件に達し、そのうちインドとナイジェリア国籍の申請者が全体の半数以上を占めています(英国内務省「National Statistics Migration Statistics」2024年2月発表)。日本人留学生にとっても、このポストスタディワークビザを活用したキャリア構築は現実的な選択肢となっていますが、専攻選択がその後の滞在資格や就職先の選択肢に与える影響を理解している人は多くありません。

本記事では**「Graduate Routeの滞在期間とSTEM優遇の実態」「ビジネススクール修了者の給与データ」「Skilled Workerビザ取得の分かれ目」**の3つの観点から、英国留学におけるSTEMとビジネス、どちらの学位がキャリア成果で優位に立つのかを、最新の公開データに基づいて読み解きます。


Graduate RouteがSTEM系学位に与える3年間の重み

英国のGraduate Routeビザは、学士・修士課程修了者には2年間、博士号(PhD)取得者には3年間の就労・求職を認める制度です。この3年という期間は、STEM分野の博士号取得者にとって、単なる「プラス1年」以上の意味を持ちます。

博士課程の学生の多くが理工学や医学、コンピューターサイエンスなどのSTEM専攻であり、これらの分野では研究室でのポスドク経験や、企業の研究開発(R&D)部門への応募に時間を要するケースが一般的です。採用プロセス自体が数カ月に及ぶことも多く、2年間ではプロジェクトへの参画から成果の提示までが時間的に厳しいという声が、留学生コミュニティからも聞かれます。

HESAの進路調査(2021/22年版)では、工学・技術系博士号取得者の卒業15カ月後の平均給与は約£39,500と、ビジネス・マネジメント系博士号取得者の平均£37,000を上回っています。研究開発型のポストが安定した給与水準を維持していることが、この差の背景にあると考えられます。

また、博士号取得者がSkilled Workerビザを申請する場合、「New Entrant(新規就労者)」カテゴリーが適用される可能性が高く、通常の給与基準よりも低い条件でスポンサーシップを得られる点は、就労ビザへの切り替えを考えるうえで実務的なメリットです。


ビジネス学位の給与実績と現実的なキャリア設計

ビジネス系学位、特にトップMBAプログラムの修了者は高い初任給で知られています。フィナンシャル・タイムズ(FT)のGlobal MBA Ranking 2025のデータでは、ロンドン・ビジネス・スクール(LBS)のMBA修了者は卒業3年後の加重平均給与が約$145,000(約2,200万円)に達すると報告されています。

しかし、これらの高額報酬はコンサルティング業界や金融セクターへの就職が前提であり、これらの業界ではMBAホルダーの採用が活発な好景気時のデータに依拠している点を見逃せません。2023年から2024年にかけて、英国の大手コンサルティングファームや投資銀行の一部では新規採用の凍結や削減が報じられており、景気後退局面では就職成功率が低下する可能性も指摘されています。

また、HESAの統計では、ビジネス・マネジメント系修士号取得者の卒業15カ月後就職率は全体で約84%と高いものの、**職種の内訳は「管理職・専門職」が約60%**であり、残りは一般事務やセールスなど学位と直接関連しないポジションに就いている実態も示されています。MBAプログラムのブランド力がものをいうのは、あくまで一部の上位スクールに限られるということは、留学前に認識しておくべき現実です。


専攻とビザ、どちらがキャリアを決めるのか

英国で長期的に働くことを視野に入れるなら、専攻分野とSkilled Workerビザの職種コードとの適合性が、Graduate Route終了後の明暗を分けます。英国内務省が公表する「Shortage Occupation List(SOL)」では、エンジニア、ITスペシャリスト、データサイエンティスト、医療技術者といったSTEM系職種が恒常的に不足職種に指定されています。

具体的には、2024年4月の改定でSOLに掲載されている職種のうち約70%がSTEM系スキルを求めるもので、ビジネス系職種の登録は限定的です(英国内務省「Skilled Worker visa: shortage occupations」2024年4月更新)。不足職種に該当する職に就ければ、スポンサー企業がビザ申請の際に通常より低い給与でも受け入れられるため、Skilled Workerビザの取得ハードルが事実上下がります

一方、ビジネス学位でも**英国勅許会計士(ACA)公認管理会計士(CIMA)**など、特定の専門資格と組み合わせることでSOL該当職種に就くルートは存在します。ただし、これらの資格取得にはプログラム修了後さらに1〜3年の実務経験と試験合格が必要であり、留学生がGraduate Routeの期間内にビザを切り替えるためには、事前に資格取得計画を緻密に立てておく必要があります。


データで比較するSTEMとビジネス、実際の選択ポイント

これまでに示したデータを整理すると、STEMとビジネス学位にはそれぞれ明確な強みと制約があることが浮かび上がります。

英国のSTEM系博士号取得者は、3年間のGraduate Routeを活かして研究キャリアを構築しやすく、さらにSOL該当職種への適合性の高さからSkilled Workerビザへの移行も比較的スムーズです。HESAの2021/22年調査で、博士号取得者の**卒業後15カ月以内の正規雇用率は工学系で約91%**と報告されており、これはビジネス系博士号取得者の約86%を上回ります。

一方、トップビジネススクールのMBAホルダーは初任給の高さが際立ち、金融やコンサルティング業界でのキャリアアップを短期間で実現できる可能性があります。2026年のQS MBA Rankingsでは、ロンドン・ビジネス・スクール、ケンブリッジ大学ジャッジ、オックスフォード大学サイードが世界トップクラスの評価を維持しており、これらのプログラムを修了すれば世界的なキャリア選択肢が開けることも否定できません。

ただし、これらの高待遇を享受できるのは、上位校修了者で、かつ景気後退の影響を受けにくいタイミングで卒業できるという条件が重なった場合です。より再現性の高いキャリアパスを求めるなら、SOLと直結するSTEM系スキルの蓄積に軍配が上がるというのが、現時点での公開データから導かれる客観的な見立てです。


将来のビザ政策変更を見据えた専攻選びの考え方

英国の移民政策は政権交代や経済状況によって変更される可能性があり、留学生は常に政策変更リスクを織り込んだ専攻選択を行う必要があります。2024年には保守党政権下で扶養家族の帯同制限が導入され、留学生家族の英国入国が厳格化されました。現在は労働党政権(2024年7月発足)が移民政策の見直しを進めており、特定分野の人材誘致を強化する可能性が指摘されています。

STEM分野、特に人工知能(AI)、再生可能エネルギー、ライフサイエンス、量子コンピューティングに関する高度人材の受け入れは、2026年以降さらに優遇される方向性が政府の「Science and Technology Framework」(2023年3月発表)に示されています。ビジネス学位でも、フィンテックやサステナビリティ経営といった専門領域を組み合わせることで、政策変更の恩恵を受けられる人材としてビザ取得を有利に進められる可能性があるでしょう。


よくある質問

Q1: STEM学位で英国に残る場合、具体的にどんな職種がありますか?

エンジニア(機械、電気、化学)、ソフトウェア開発者、データアナリスト、バイオテクノロジー研究者などがSOL指定職種に含まれます。これらの職種ではスポンサー企業の登録が容易で、Skilled Workerビザへの移行実績も豊富です。

Q2: ビジネス学位でもSTEM優遇の恩恵を受けられますか?

ビジネスアナリティクスやフィンテックなど、データ分析やプログラミングを組み合わせたビジネスプログラムを選ぶことで、STEM系職種としてSOL対象になる可能性があります。履修科目を事前に確認し、意図的にスキルをミックスさせることが有効です。

Q3: MBAと専門修士(MSc Financeなど)では、どちらがビザ取得に有利ですか?

修士課程の種類そのものより、卒業後に就く職種のSOL適合性が重要です。MSc Financeで計量分析やリスクモデリングの専門性を高め、金融工学やクオンツ職を目指せば、SOL該当職に就ける可能性が高まります。

Q4: Graduate Routeビザの期間中に無職でも問題ありませんか?

就労は許可されていますが義務ではないため、求職活動中であれば無職でもビザの条件に違反しません。ただし、期間終了後のSkilled Workerビザ切り替えを見据えると、早期の内定獲得が理想です。

Q5: 英国の博士課程にかかる費用と奨学金の選択肢を教えてください。

博士課程の年間学費は£18,000〜£35,000程度が一般的で、UK Research and Innovation(UKRI)や各大学の独自奨学金、また日本学術振興会の海外特別研究員制度などが利用可能です。理工系博士課程では奨学金獲得率が比較的高い傾向があります。


参考資料:

  1. UK Home Office, “National Statistics: Immigration system statistics, year ending December 2023” (2024)
  2. UK Home Office, “Skilled Worker visa: shortage occupations” (April 2024 update)
  3. HESA, “Graduate Outcomes 2021/22: Summary Statistics” (2023)
  4. Financial Times, “Global MBA Ranking 2025”
  5. UK Government, “Science and Technology Framework” (March 2023)
  6. QS World University Rankings, “MBA Rankings 2026”

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